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HA20EP:「Not Unlike」

 鳴香奈:禁術の使い手。風紀委員


 冬深まる12月。西生駒高校はこの季節生駒降しが吹き、自転車で通学し
ている私には厳しい時期です。かといって、夏は夏で暑いので大変なのです
が。

 教室についてストーブを点け暖を取っていると、クラスメイト達が登校し
てきます。クラスメイトの田中美奈絵さんがえらく沈んだ顔で入ってきます。
隣のクラスの野中君と付き合っていて、普段は学内の風紀を乱すぎりぎりの
行為ばっかりで注意しているのですが、これはこれで気になります。

 香奈     :「どうしたの、美奈絵さん? えらく沈んだ表情をして?」
 美奈絵    :「……和君が急に冷たくなって、今朝から態度が少し変
        :だなぁと思ってたんだけど、今日の放課後一緒に買い物
        :に行く約束も急に行かないとか言うんです。なにか嫌わ
        :れる様なことしたのかなぁ……」
 香奈     :「野中君も急用ができただけかもしれないじゃない?」
 美奈絵    :「朝も待ち合わせの所にいないし、その約束したの、昨
        :日の昼休みなんですよ。そのために展示会用の絵を昨日
        :遅くまで残って描いていたのに」
 香奈     :「そっか、そういや野中君は美術部だったわね。判った
        :私が聞いてきてあげる。だから、沈んだ顔禁止っ!」


 隣のクラスに行き、野中君を呼び出します。

 香奈     :「野中君、ちょっとお話いいかな?」
 野中     :「なんだい、鳴さん。今日は注意される様なことはして
        :ないはずだぜ?」
 香奈     :「確かにしてないわね。ちょっと美奈絵が落ち込んでい
        :るのが気になって。今日の放課後なんか急用でもできた
        :の? 美奈絵と出かける予定だったみたいなんだけど」
 野中     :「いや、これといった急用はないよ」
 香奈     :「じゃあ、どうして? 美奈絵のことが嫌いになったの?」
 野中     :「いや、嫌いになったわけじゃないんだ。ただ、好きで
        :もない。好きでもない女とわざわざ二人っきりで出かけ
        :るのは変だろ」
 香奈     :「別に他に好きな女の子が居なければ、良いじゃない。
        :用事がなければ、今日の夕方美奈絵に付き合ってあげて
        :よ。嫌いなわけじゃないんでしょ?」
 野中     :「判ったよ。鳴さんには見逃してもらった恩もあるし。
        :確かに好きな女もいないし、嫌いじゃないからな」

 教室に戻り、美奈絵さんに「野中君、オッケーだって。また彼を振り向
かせるために、頑張れっ」と伝え、一件落着です。好いた惚れたなんて、
ちょっとしたきっかけなのですから、いい方向に転がることを期待する
ばかりです。ただ、ちょっとだけ気にはなりました。
 しかし最近校内を騒がせている妖鏡の仕業なら、好きの反対で嫌いに
なるはずなのですが。嫌いじゃないというのはどういうことでしょう?


 放課後風紀委員会が終わった後、美術室に向かいます。展示会が近い
からか、普段はもう全員帰っている美術室で美術部員が一人絵を描いて
います。

 香奈     :「お邪魔します。ちょっと野中君のことでお聞きしたい
        :んですけど、よろしいでしょうか?」
 美術部員   :「はい、なんでしょ?」
 香奈     :「野中君てなにか昨日変わったことありました?」
 美術部員   :「いんや、特にないけど? 今日もガッコきとったやろ?」
 香奈     :「ええ、来てました」
 美術部員   :「何でも今日彼女と買い物行くために、おそぉまで絵描
        :いとったくらいやのぉ」
 香奈     :「何時くらいなんでしょうか?」
 美術部員   :「いやぁ、知らへん。先帰ったからのぉ。わいは彼女お
        :らへんから時間はたっぷりあるからな」
 香奈     :「ちなみに、野中君の描いている絵はどこにあるんです
        :か?」
 美術部員   :「あぁ、準備室にしまっとるよ。ここは授業で使うから
        :なぁ。終わったら各自準備室にしまうようにしとるんや」
 香奈     :「見せてもらってもかまいませんか?」
 美術部員   :「まぁ、ええよ。準備室の扉はあいとるから、勝手に入
        :りや彼の絵は確か入り口付近においてあったで」

 美術室から、準備室に向かう扉を開けます。授業で使う胸像や、画材がご
ちゃごちゃとしています。鏡は入り口付近にある手洗いについている鏡くら
いです。霊視をしても特に妖しい物は見えません。

 野中君の絵も普通の静物画ですし、霊的にも妖しくありません。

 冬なので校外はだいぶ暗くなってきました。そのとき、私の心にさざなみ
の様な変化を感じました。

 香奈     :「我が心変えることあたわず!」

 慌てて禁術で、妖力に耐えます。私の禁術は言霊の力で、禁止することが
できる術なのです。禁止するという言葉をいえないと使えない力ではあるの
ですが。

 慌てて外を見ると、外が暗くなった窓に私の姿が映っており、窓から強烈
な妖気を感じます。

 香奈     :「汝窓、心惑わすことことあたわず!」

 禁術にて、窓の妖力を打ち消します。ピシッという音と共に、カーテン
の裏から、黒いゴミが落ちていくのが見えます。カーテンに隠して呪法で
もかけていたのでしょう。やっぱり妖鏡の仕業です。心が逆になる呪法で
もかけていたのでしょう。

 では、なぜ、逆ではなかったのか?それも彼の絵を置いた位置で判りまし
た。昨日夜遅くまで絵を描いた彼は、多分入り口の手洗い場の鏡を見たので
しょう。鏡に映った窓を見たために、「好き⇔好きじゃない⇔嫌いじゃない」
となったわけです。

 次の日、今度は嬉しそうに登校してくる美奈絵さんの姿がありました。

 美奈絵    :「香奈さん、ありがとう。昨日和君がやっぱり私のこと
        :好きって言ってくれたの。香奈さんのおかげよ」
 香奈     :「おめでとう。だけど、……校内で風紀を乱すのは禁止っ!
        :だからね」